可変性
すでに見たように、Ergの変数は全て不変です。しかし、Ergのオブジェクトには可変性という概念があります。 以下のコードを例にします。
a = [1, 2, 3]
a = a + [4, 5, 6]
print! a # [1, 2, 3, 4, 5, 6]
上のコードは実際にはErgでは実現できません。再代入不可だからです。 このコードは実行できます。
b = ![1, 2, 3]
b.concat! [4, 5, 6]
print! b # [1, 2, 3, 4, 5, 6]
a, b
は、最終的な結果は同じように見えますが、その意味は大きく異なります。
a
はNat
の配列を示す変数ですが、1行目と2行目では指しているオブジェクトが異なります。a
という名前が同じだけで、中身はさし変わっているのです。
a = [1, 2, 3]
print! id! a # 0x000002A798DFE940
_a = a + [4, 5, 6]
print! id! _a # 0x000002A798DFE980
id!
プロシージャはオブジェクトが存在するメモリ上のアドレスを返します。
b
はNat
の「動的」配列です。オブジェクトの中身は変わりますが、変数の指すものは同じです。
b = [1,2,3].into [Int; !3]
print! id! b # 0x000002A798DFE220
b.concat! [4, 5, 6]
print! id! b # 0x000002A798DFE220
i = !0
if! True:
do! i.inc!() # or i.add!(1)
do pass
print! i # 1
!
は 可変化演算子(mutation operator) とよばれる特殊な演算子です。引数の不変オブジェクトを可変化して返します。
!
がついたオブジェクトの振る舞いはカスタム可能です。
Point = Class {.x = Int; .y = Int}
# この場合.xは可変化し、yは不変のまま
Point! = Class {.x = Int!; .y = Int}
Point!.inc_x! ref! self = self.x.update! x -> x+1
p = Point!.new {.x = !0; .y = 0}
p.inc_x!()
print! p.x # 1
定数
変数と違い、すべてのスコープで同じものを指すのが定数です。
定数は=
演算子で宣言します。
PI = 3.141592653589
match! x:
PI => print! "this is pi"
定数はグローバル以下のすべてのスコープで同一であり、上書きができません。よって、=
による再定義はできません。この制限により、パターンマッチで使うことができます。
True
やFalse
がパターンマッチで使えるのは、この2つが定数だからなのです。
また、定数は必ず不変オブジェクトを指しています。Str!
型などは定数となれません。
組み込み型がすべて定数なのは、コンパイル時に決定されているべきだからです。定数でない型も生成可能ですが、型指定には使えず、単なるレコードのようにしか使えません。逆に言えば、型はコンパイル時に内容が決定されているレコードとも言えるでしょう。
変数、名前、識別子、シンボル
ここで、Ergでの変数に関する用語を整理しておきましょう。
変数(Variable)はオブジェクトに名前(Name)をつけ、再利用できるようにする仕組み(またはその名前を指す)です。 識別子(Identifier)は変数を指定する文法要素です。 シンボルは名前を表すための文法要素、トークンです。
記号でない文字だけがシンボルであり、記号は演算子として識別子足り得ますが、シンボルとは呼びません。
例えば、x
は識別子でシンボルです。x.y
も識別子ですが、これはシンボルとは言いません。x
とy
はシンボルです。
またx
が何のオブジェクトに紐づけられていなかったとしても、x
は相変わらずSymbolかつIdentifierですが、Variableとは言いません。
x.y
という形の識別子はフィールドアクセサと言います。
また、x[y]
という形の識別子は添字アクセサと言います。
変数と識別子の違いですが、Ergの文法論的な意味での変数をいうのならば、実質この二つは同じです。 変数と識別子が等価でない言語は、C言語などがあげられます。C言語では、型や関数は変数に代入できません。int, mainは識別子ですが変数ではないのです(厳密には代入出来る場合もありますが、制約があります)。 しかし、Ergでは「全てがオブジェクト」です。関数や型は勿論、演算子でさえ変数に代入可能です。