関数

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関数は「引数」を受け取ってそれを加工し、「戻り値」として返すブロックです。以下のように定義します。

add x, y = x + y
# or
add(x, y) = x + y

関数定義の際に指定される引数は、詳しくは仮引数(parameter)と呼ばれるものです。 これに対し、関数呼び出しの際に渡される引数は、実引数(argument)と呼ばれるものです。 addxyを仮引数として受け取り、それを足したもの、x + yを返す関数です。 定義した関数は、以下のようにして呼び出し(適用)ができます。

add 1, 2
# or
add(1, 2)

コロン適用スタイル

関数はf x, y, ...のように呼び出しますが、実引数 が多く一行では長くなりすぎる場合は:(コロン)を使った適用も可能です。

f some_long_name_variable_1 + some_long_name_variable_2, some_long_name_variable_3 * some_long_name_variable_4
f some_long_name_variable_1 + some_long_name_variable_2:
    some_long_name_variable_3 * some_long_name_variable_4

上の2つのコードは同じ意味です。このスタイルはif関数などを使用するときにも便利です。

result = if Bool.sample!():
    do:
        log "True was chosen"
        1
    do:
        log "False was chosen"
        0

この場合、:の後はコメント以外のコードを書いてはならず、必ず改行しなくてはなりません。 また、関数の直後に:を使うことはできません。これができるのはdodo!のみです。

# NG
f:
    x
    y
# Ok
f(
    x,
    y
)

キーワード引数

仮引数の数が多い関数を定義されていると、実引数を渡す際に順番を間違える危険性があります。 そのような場合はキーワード引数を使用して呼び出すと安全です。

f x, y, z, w, v, u: Int = ...

上に定義された関数は、引数が多く、分かりにくい並びをしています。 このような関数は作るべきではありませんが、他人の書いたコードを使うときにこのようなコードにあたってしまうかもしれません。 そこで、キーワード引数を使います。キーワード引数は並びよりも名前が優先されるため、順番を間違えていても名前から正しい引数に値が渡されます。

f u := 6, v := 5, w := 4, x := 1, y := 2, z := 3

デフォルト引数

ある仮引数が大抵の場合決まりきっており省略できるようにしたい場合、デフォルト引数を使うと良いでしょう。

デフォルト引数は:=(default-assign operator)で指定します。baseが指定されなかったらmath.Ebaseに代入します。

math_log x: Ratio, base := math.E = ...

assert math_log(100, 10) == 2
assert math_log(100) == math_log(100, math.E)

引数を指定しないこととNoneを代入することは区別されるので注意してください。

p! x := 0 = print! x
p!(2) # 2
p!() # 0
p!(None) # None

型指定、パターンと併用することもできます。

math_log x, base: Ratio := math.E = ...
f [x, y] := [1, 2] = ...

しかしデフォルト引数内では、後述するプロシージャを呼び出したり、可変オブジェクトを代入したりすることができません。スクリプトを実行する度にデフォルト引数の値が変わってしまうのは混乱を招くためです。

f x := p! 1 = ... # NG

また、定義したばかりの引数はデフォルト引数に渡す値として使えません。

f x := 1, y := x = ... # NG

可変長引数

実引数をログ(記録)として出力するlog関数は、任意の個数の引数を受け取ることができます。

log "Hello", "World", "!" # Hello World !

このような関数を定義したいときは、仮引数に*を付けます。このようにすると、引数を可変長の配列として受け取ることができます。

f *x: Int =
    # x: [Int; _]
    for x, i ->
        log i

# x == [1, 2, 3, 4, 5]
f 1, 2, 3, 4, 5

複数パターンによる関数定義

fib n: Nat =
    match n:
        0 -> 0
        1 -> 1
        n -> fib(n - 1) + fib(n - 2)

上のような定義直下にmatchが現れる関数は、下のように書き直すことができます。

fib 0 = 0
fib 1 = 1
fib(n: Nat): Nat = fib(n - 1) + fib(n - 2)

複数のパターンによる関数定義は、いわゆるオーバーロード(多重定義)ではないことに注意してください。1つの関数はあくまで単一の型のみを持ちます。上の例では、n01と同じ型である必要があります。また、matchと同じくパターンの照合は上から順に行われます。

違うクラスのインスタンスが混在する場合は、最後の定義で関数引数がOr型であることを明示しなくてはなりません。

f "aa" = ...
f 1 = ...
# `f x = ...` is invalid
f x: Int or Str = ...

また、matchと同じく網羅性がなくてはなりません。

fib 0 = 0
fib 1 = 1
# PatternError: pattern of fib's parameter is not exhaustive

しかし、上のような場合でも、後述する篩型を使って明示的に型指定することで、網羅性を獲得できます。

fib: 0..1 -> 0..1
fib 0 = 0
fib 1 = 1
# OK
fib 2 # TypeError: the first parameter type of fib is 0..1, but got {2}

再帰関数

再帰関数は自身を定義に含む関数です。

簡単な例として階乗の計算を行う関数factorialを定義してみます。階乗とは、「それ以下の正の数をすべてかける」計算です。 5の階乗は5*4*3*2*1 == 120となります。

factorial 0 = 1
factorial 1 = 1
factorial(n: Nat): Nat = n * factorial(n - 1)

まず階乗の定義から、0と1の階乗はどちらも1です。 順に考えて、2の階乗は2*1 == 2、3の階乗は3*2*1 == 6、4の階乗は4*3*2*1 == 24となります。 ここでよく見ると、ある数nの階乗はその前の数n-1の階乗にnをかけた数となることがわかります。 これをコードに落とし込むと、n * factorial(n - 1)となるわけです。 factorialの定義に自身が含まれているので、factorialは再帰関数です。

注意として、型指定を付けなかった場合はこのように推論されます。

factorial: |T <: Sub(Int, T) and Mul(Int, Int) and Eq(Int)| T -> Int
factorial 0 = 1
factorial 1 = 1
factorial n = n * factorial(n - 1)

しかし例え推論が出来たとしても、再帰関数には型を明示的に指定しておくべきです。上の例では、factorial(-1)のようなコードは有効ですが、

factorial(-1) == -1 * factorial(-2) == -1 * -2 * factorial(-3) == ...

となって、この計算は停止しません。再帰関数は慎重に値の範囲を定義しないと無限ループに陥ってしまう可能性があります。 型指定は想定しない値の受け入れを防ぐのにも役立つというわけです。

高階関数

高階関数は引数や返り値に関数を取る関数のことを指します。 例えば引数に関数を取る高階関数は以下のように記述できます。

arg_f = i -> log i
higher_f(x: (Int -> NoneType)) = x 10
higher_f arg_f # 10

もちろん、関数を返り値にすることもできます。

add(x): (Int -> Int) = y -> x + y
add_ten = add(10) # y -> 10 + y
add_hundred = add(100) # y -> 100 + y
assert add_ten(1) == 11
assert add_hundred(1) == 101

このようにして関数を引数や返り値にとることで、より柔軟な表現を関数で定義することができます。

コンパイル時関数

関数名を大文字で始めると、その関数はコンパイル時関数であると宣言したことになります。ユーザー定義のコンパイル時関数は、引数がすべて定数で、かつ型を明示する必要があります。 コンパイル関数ができることは限られています。コンパイル時関数内で使えるのは定数式のみ、すなわち、いくつかの演算子(四則演算や比較演算、型構築演算など)とコンパイル時関数のみです。代入する引数も定数式である必要があります。 そのかわり、計算をコンパイル時に行うことができるというメリットがあります。

Add(X, Y: Nat): Nat = X + Y
assert Add(1, 2) == 3

Factorial 0 = 1
Factorial(X: Nat): Nat = X * Factorial(X - 1)
assert Factorial(10) == 3628800

math = import "math"
Sin X = math.sin X # ConstantError: this function is not computable at compile time

コンパイル時関数は多相型の定義などでもよく使われます。

Option T: Type = T or NoneType
Option: Type -> Type

コンパイル時関数の仮引数は、既に定義されている如何なる定数とも違う名前である必要があります。名前が被った場合、定数パターンとして解釈されます。

# Intは仮引数ではない。型Intのみを引数にとる関数
K Int = None

付録1: 関数の比較

Ergでは、関数に==が定義されていません。それは関数の構造的な同値性判定アルゴリズムが一般には存在しないためです。

f = x: Int -> (x + 1)**2
g = x: Int -> x**2 + 2x + 1

assert f == g # TypeError: cannot compare functions

fgは常に同じ結果を返しますが、その判定を行うのは至難の業です。コンパイラに代数学を教え込む必要があります。 そのため、Ergは関数の比較をまるごと諦めており、(x -> x) == (x -> x)もコンパイルエラーになります。これはPythonとは違った仕様なので注意する必要があります。

# Pythonの奇妙な例
f = lambda x: x
assert f == f # True
assert (lambda x: x) != (lambda x: x) # Passed

付録2: ()の補完

f x: Object = ...
# これは以下のように補完される
f(x: Object) = ...

f a
# これは以下のように補完される
f(a)

f a, b # TypeError: f() takes 1 positional argument but 2 were given
f(a, b) # TypeError: f() takes 1 positional argument but 2 were given
f((a, b)) # OK

関数型T -> Uは実際のところ、(T,) -> Uの糖衣構文です。